2007Senior World Championship

この度の世界選手権のお話しをさせて頂く前に、「スポーツキャスティング」に余り馴染みのない方もいらっしゃると思いますので、まずはこちらの説明から話を始めさせて頂きます。

キャスティング競技の世界は現在大きくは2つに分かれたカテゴリーで開催されております。一つは日本で一般的な投げ釣りの延長線上で、鉛(50~100g)を原材料とした「錘」で飛ばした距離を競う種目。

もう一つはプラスチックを原材料(18g)とした「プラグ」で飛ばした距離を競う種目の2分野です。 オリンピックでよく耳にするIOCから公認されているのはプラグを用いた遠投競技で、過去にオリンピックの公開競技にもなった程です。

プラグの世界選手権は2年に1度開かれており、今回参加したのは比較的開催の歴史が浅い「シニア・ベテラン世界選手権」(一部の口の悪い人曰くはオジン大会)です。

毎日の暑さが一向に引かない8月11日に福岡を発ち韓国にて中継の後、東ヨーロッパのチェコに到着したのは同月11日の夕刻でした。早速タクシーを捕まえてホテルへチェックインを済ませたらもう午後8時でしたが、外はまだ明るく現地は現在1時間遅れの夏時間の真っ最中です。

これから4日間は時差調整兼観光でプラハに留まり、15日に大会会場へ移動です。この度は観光案内では有りませんので飛ばしますが、チェコは大変古くからの建物が戦災にも遭わず残されていまして、さながらヨーロッパの京都といった趣のある国でした。

15日に遅い朝食を取った後に大会会場へ移動し宿にチェックイン、すぐに隣接した会場に移動し練習開始。暫くすると今回の日本チームメンバー残り2名と会場で合流し昼からは5時間ほど練習!(気持ちだけは皆若いんです)。この時はパーフェクトな順風2mの条件でしたので、飛ぶは飛ぶは。自身ほんまかいな?と思える110m~115mの距離でした。

何処かの国の偉いサン?が近づいて来たので一通り御挨拶を済ませ、「どうだ?」と聞いてきたので距離を伝え、レーザー計測計の数字を見せたところ青くて「丸い目」を大きく見開いて驚いてました。このやり取りのせいか、次の日にドイツの選手が練習準備をしていた所にやってきて、道具をしげしげと眺めた後でリールの「チタニウムMG」を指差して「モンスターマシーン」とのたまわったでした。すぐさま「ノーノー!テクニック!」と腕をポンポン叩いて言い返したのですが、何処まで通じたものやら。

練習が終了してホテル(実情はスポーツ合宿所で冷蔵庫なしエアコンなんてもっての他)に戻り、ウエルカムパーティーを待ちます。いそいそと部屋を出てパーティ会場へ入ると皆さん御揃いなんですが、なんか思ってたのと違います。見るとしっ!しっ!食事の準備が有りません~。夕食は各自食堂で済ました後に集合であった様で、これで昼食、夕食ぬきが決まりました。

生ビールが一層腹に堪えます。いつもよりアルコールが回った状況で「キャプテンミーティング」とやらが別部屋であり、意に反して代表で出たのですがドイツ語、チェコ語が乱れ飛ぶもんだからナンノコッチャ?状態、英語への通訳が入るのですが理解半分,フィーリング半分の理解度です。そうこうしてる内に御開きとなり、河岸を変えて飲み会が開催されますが、空腹に耐えられずに私達夫婦は早々に部屋へ引き上げ、空腹を抱えながら就寝となりました。

その後2日間はみっちり練習(隔離された立地なので町まで遠征することが出来ません)を重ねて本番の3日目を迎えます。

本番は朝からほぼ無風状態が続き、条件は今大会で1番安定してます。私達は朝6時から2時間の朝錬(と言うとカッコいいのですが年を取ると自然と目が覚めてしまいます)を消化し、朝食を頂いた後に第7種目(スピニングリール使用の遠投)に望みます。 


会場では6つのコートが用意され、おのおののコートに10人強の選手が3投投擲し、最長で予選の通過が決まります。私は第5コートの1番、投擲エリアに入ると年甲斐も無く心臓が「バクバク」暴れてるのを感じます。第1投目は94m!しかし周りの成績を見るとこのままでは予選通過も望めない成績です。暫定1位はドイツ選手の100.61m!

「おっかしいな~」と思い、撮影したビデオを見返すとフォームがハチャメチャ。すぐさま悪い所のチェックと対応を考えて2投目に臨みます。それでも全部は修正出来なかった様で、今度は引っ張りすぎて右へ2m程エリアを出てしまいました。これはヒジョ~に拙い状況です。ただ糸の出具合(量)を見るとそこそこは飛んでる様なので、最終の3投目は立ち位置を修正して臨みます。

そして運命の第3投目、条件は変化無く無風です。渾身の力で振りぬけた竿からプラグが放たれ、センターやや右に無事着地!。計測員が100mメジャーの端を持って着地点に向かいます。ずるずるとメジャーが引張られ、そのままこちらの端が投擲エリアから出て行き100mでは足りない事が判ります。結果は104.73m!!予選通過です!。

15分程の休憩の後、成績上位6名による決勝戦の始まり、決勝に使うコートの周りは各国選手が結果を見守ります。投擲順は下位から始まり、私は最後で6番目、ドイツ選手はその前に投擲します。決勝1投目はドイツ選手が予選より距離を伸ばして101.58mを叩き出しました。周りのドイツ選手が沸きます。

その中で私の第1投目、予選よりはかなり落ち着いて予選時の修正点を確認しながらの投擲です。予定通りセンターやや右にプラグが着地、計測員がメジャーを着地点目指して引張ります。またしてもメジャーが足りません!1投目の成績104.40mがコールされると、盛り上がっていたドイツチームが一瞬にしてシーンと沈黙してしまいました。

2投目はドイツ選手が1投目を上回ることが出来ず、私の当日最長104.74mが会場にコールされるとドイツ選手団からは重い沈黙が支配し始めました。

いよいよ最終の第3投目が始まると、それまでの微風追い風だったのが反対に微風向かい風に変わって来ました。各選手少しでも良い条件で投擲したいので、許される1分間を有効に使っての風待ちが始まります。それでも条件は好転せず各選手は持てる力を振り絞って投擲して行きます。ドイツ選手も1分をフルに使って(1分以上だったような気がしますが)投擲しますが、98mを超えるのが精一杯の様でした。

これでついに勝負あったでしたが、「風で勝った」と思われるのが癪でしたので満身の力を込めての3投目です。最後の投擲も計測員のメジャーが足りず、101mの成績を記録して短い様で長かった決勝戦は終了です。

周りの選手,審判,計測員が祝福の為、握手を求めてきます。至福の瞬間でした。会場の横で販売されている生ビール(500mlで160円とメッチャ安)を味わい、この後30分後に始まる第9種目を迎えるのですが、緊張感が薄れてどうしても元に戻せませんでした。結果は3位には滑り込みましたが、とても言えたザマではありません。スミマセン!!。

最後に技術アドバイスを頂きました下野氏、タックルの協力を頂いた㈱シマノ様、糸の協力を頂いた東レ㈱様に感謝申し上げて、稚拙な参戦記を終わらせて頂きます。有難う御座いました。